今回はエラリークイーンの国名シリーズの第5作目、『エジプト十字架の謎』を読んだので、見どころと感想を書いていきたいと思います。
本格ミステリの巨匠クイーンの作品中でも、『エジプト十字架の謎』は人気が高いらしく、エラリー・クイーン・ファンクラブ会員40名の投票では全作品中3位、2005年「ジャーロ」の海外ミステリー・ベストテンでは9位にランクインしているそうです。
私自身、国名シリーズは高校時代に4作目の『ギリシア棺の謎』まで読んでいて、ハズレがないシリーズだなと思っていました。
最近は純文学を読むことが多かったのですが、アンソニー・ホロヴィッツの新作『』を読んでから本格ミステリ熱が再燃し、途中だった国名シリーズを全部読もうと思い立ちました。
読んでみて感じたのは、100年ほど前の作品にも関わらず、やはりエラリー・クイーンは最高に面白い!
黄金時代の古典ミステリは、永遠に古びることはないんだなと思い知らされました。
今回の記事では、前半にネタバレなしで『エジプト十字架の謎』のあらすじと見どころを紹介し、後半は警告後にネタバレ有りで真相の要約と私の推理の過程を書いていきたいと思います。
『エジプト十字架の謎』のあらすじ

Amazonから『エジプト十字架の謎』のを引させていただいたきます。
クリスマスの早朝、ウェストヴァージニアの小村の丁字路で、T字形の道標にはりつけられた男の首なし死体。この怪奇な事件は半年後、第二の首なし死体の出現をもって、全米を震撼させる一大事へと発展する! 「T」の意匠に彩られた連続殺人に相対するは、青年作家エラリー・クイーン。推理の連打と壮絶な追跡劇の果てに、名探偵が神域の論理により看破する驚愕の真相とは? 国名シリーズに堂々屹立する、本格ミステリの金字塔。
横溝正史やカーを思わせるような、Tに埋め尽くされたおどろおどろしい雰囲気の殺人現場、太陽神を自称する高齢の狂人が教祖の裸体主義のカルト教団、異国の因習が関わる復讐劇と、ワクワクする設定が目白押しの作品です!
『エジプト十字架の謎』の見どころ

『エジプト十字架の謎』を未読の方に向けて、ネタバレなしで本作の見どころを紹介します。
【見どころ①】以前の作品にはなかったエンタメ性
『エジプト十字架の謎』以前の4作品は、本格ミステリとしてどれも名作なのですが、人によっては無味乾燥で地味な印象を持ち、読みづらいと感じるかもしれません。
しかし、『エジプト十字架の謎』は、Tに埋め尽くされた凄惨な現場は最高のツカミですし、後半には少し滑稽な追跡劇があったりと、エンタメ要素が強くなっている印象でした。
ミステリって、空間的には限られた狭い範囲で展開する場合が多いと思うんですが(クローズドサークルや警察の管轄など)、『エジプト十字架の謎』は舞台が広範囲なのが印象的です。
エラリーが愛車を猛スピードで走らせているのは、アメリカ的で面白いなと思いました。
【見どころ②】真骨頂である論理の切れ味が相変わらず抜群
エラリークイーンの真骨頂といえば、犯人特定までの緻密な論理展開です。
『エジプト十字架の謎』では、これまでの国名シリーズの4作に比べてエンタメ性が上がっていたとしても、持ち前の論理の切れ味は、相変わらず抜群です。
ネタバレ有りの部分で紹介しますが、後半にたったひとつの手がかりから犯人を特定する論理展開は、ファンの間で有名なようです。
『エジプト十字架の謎』私の迷推理

ここからは、ネタバレ有りで私の迷推理を披露しますので、未読の方はご注意ください。
『エジプト十字架の謎』真相の要約
犯人は、最初の事件の被害者と思われていた校長でした。
動機は、確執のある兄弟を始末して遺産を相続し、自分は死んだことにして国外に逃亡することでした。
『エジプト十字架の謎』では、4体の首なし死体が出てきますが、実際の死体の身元は次のとおりです。
- 第一現場:誘き出され、返り討ちにあった復讐者
- 第二現場:社長
- 第三現場:旅人
- 第四現場:新鮮な死体となるべく、ずっと囚われていた召使
4体の首なし死体を使った死体すり替えトリックに、校長の一人二役トリックなど、古典本格ミステリ好きが喜びそうな仕掛けがたくさんありますね!
結果的に犯人は当たっていたが…
私は読者への挑戦状を読んでいる段階での推理で、一応校長を犯人と名指しできました。
しかし、各現場の死体の身元は予想をはずしまくっていたので、ただヤマカンが当たっただけという形になりました 笑
私が考えた各現場の死体の身元は
- 第一現場:召使
- 第二現場:社長
- 第三現場:復讐者
- 第四現場:旅人
という感じでした。
どういう推理をしたか説明します。
第一現場は、「復讐者が校長と間違えて召使を殺した」と校長が偽装し、召使を殺害。
第二現場は、特にひねりはなく、社長を殺害。
第三現場は、旅人と校長が結託して復讐者を誘き寄せて返り討ち、旅人の死体と偽装。
→旅人が急に足が痛いと言い出したのは、足が悪い復讐者の死体を自分の死体と思わせるためのブラフ。
第四現場は、校長が旅人を匿うという名目で、言葉巧みに隠れ家の山小屋に連れ込み殺害、自分の死体と偽装。
と、まあこんな感じで、見事に外しました。
第一現場では、校長が復讐者の仕業に偽装していると見抜いていたのに、死体の身元に関しては校長の話を鵜呑みにしてしまいました。
第三現場では、医者が「前日に裸にして診察したから旅人の死体で間違いない。」と証言していました。
しかし、うがった見方をする私は、当時の医療なんて大したことないだろうし、俺が気づかないだけで上手く医者をごまかす方法があるんだろうと雑な推理をしてしまいました。
医者の証言は、第三現場の死体が旅人であると特定するための情報で、素直に受け取れば良かったんですね。
旅人が診察を受けた理由が、足の痛みであること、被害者自身がわざわざ復讐者に狙われやすい状況にしていたことは、私と同じように間違った推理をするよう、意図的に配されたミスリードだったかもしれませんが。
「首なし死体」についての推理
古典的な本格ミステリの定番、私が大好きな首なし死体!笑
ミステリで首なし死体が出てきた場合、考えられるトリックは色々あって、最初にパッと思い浮かぶのは、『エジプト十字架の謎』でも使われた死体の身元を隠すこと(死体のすり替え)ですね。
あとは、頭部についた犯人特定の証拠を隠すため(特殊な凶器で、それ自体が犯人を指し示す場合に傷を隠すためなど)、新本格ミステリの某作家は、被害者の体重を軽くするのがトリック完成の条件だったため、頭部を切断し重さを調整したなんて作品もありました。
『エジプト十字架の謎』でも首なし死体が出てきた段階で、「死んだと思ってた人が生きてるんだろうな」と思ったのですが、ラストではなく中盤に早々と「校長が生きてました!」と出してきたので驚きました。
まさか同じ人物でもう一度死体すり替えをするとは!
頭部切断によって死体の身元を隠すトリックは、科学捜査が進んだ現代では、少し状況を工夫しない限り、クローズドサークルで科学捜査が行われない場合などにほぼ限定されますね。
某売れっ子作家の某有名シリーズ内の、映画化もされている作品では、ある工夫で首なし死体すり替えトリックを、科学捜査に耐える形で実行していました。
「復讐者」についての考えたこと
『エジプト十字架の謎』は物語の裏に復讐者の影がずっとチラついていました。
復讐者は「若い男性」だが、被害者たちも子どものころしか見たことがないので、今の姿は分からない、身分を変えてすぐ近くに潜んでいるかも知れないという設定。
読んでいく中で、「これはミスリードだな」というのは分かりました。
こういう場合、これまで登場した若い男性に注意を向けさせ、本当の犯人は高齢男性や女性などが考えられます。(犯人が女装していて、みんなが女性と思っていた場合も)
今回、この復讐者はこのようなミスリードと、身元不明死体をひとつ増やす働きがありましたね。
参考にしたい、「ヨードチンキの推理」をはじめとしたエラリークイーンの論理
『エジプト十字架の謎』の解説によると、ファンの間で「ヨードチンキの推理」というのが有名らしいですね。
「ヨードチンキの推理」とは、第四現場で負傷した犯人が、ラベルが貼られた消毒液がいくつかあるにもかかわらず、一見してそれと分からない瓶に入ったヨードチンキ(消毒液)を迷わず使ったことから、犯人は現場で生活していた人物であるという推理のこと。
シンプルだけど、言われるとみんな納得しちゃう論理展開ですよね。
あとは、第二現場のチェッカーの推理。
最後の目撃者が、被害者は1人黒と白両方の役をやりながらチェッカーをしていたと証言しました。
しかし、現場に残された盤面の状況はかなりワンサイドゲームになっていました。
チェッカーは名人レベルという被害者が、1人でチェッカー遊びをしていたのなら、こんな一方的な展開ではなく、もっと拮抗しているはず。
つまり、事件発生時、被害者は1人でチェッカー遊びをしていたのではなく、誰かと対戦していたこと、そして被害者の実力から、勝利していた黒側に被害者が座っていたことも推理します。
これも、明確な証拠というわけではないですが、言われれば「確かに」と納得してしまう論理です。
私の推理は、過去に読んだ小説や観た映画から連想する直感的な推理なので、エラリークイーンの論理的推理を参考に精進します。
まとめ

今回はエラリー・クイーンの『エジプト十字架の謎』の感想を書きました。
高校時代は本格ミステリにハマっていてよく読んだのですが、読んでいない名作がまだまだたくさんあると感じました。
本格ミステリ熱が冷めないうちに、エラリー・クイーンの国名シリーズの残り5作品を全部読んでみようと思います。