Audible(オーディブル)が、2ヶ月間無料お試しキャンペーンということで、車通勤になり、通勤時間を持て余していたので、試しにオーディブルを利用することにしました。
「さすがに小説は活字で読みたいな。オーディブルは実用書だけにしよう」と思っていたのですが、オーディブルが予想以上のクオリティだったので、小説もいけそうだなと思い、短編くらいなら聴いてもいいかなと思い直しました。
そして、私が最近ハマっている平野啓一郎の短編『息吹』が、活字として発表される前にオーディブルで先行配信される「オーディオファースト作品」として話題になっていたことを思い出しました。
オーディブルで最初に読む小説にふさわしいなと思い、早速聴いてみました。
今回の記事では、まず前半にオーディブルで小説を聴いてみた感想と『息吹』の簡単な作品紹介、後半は警告後に『息吹』のラストについての、自分なりの考察をしたいと思います。
Audible(オーディブル)で小説を聴いた感想
小説の内容はしっかり聴き取れる
オーディブルをやり始める前は、通勤時間にポッドキャストやyoutubeをかけて音声学習をしていたのですが、喋りが早かったり、滑舌が悪かったりと、聴き取りづらいことが多かったです。
気付いたら意識が別のことに向いて、内容がまったく頭に入らなかったということもよくありました。
しかし、オーディブルはプロの声優が朗読しているということもあり、滑舌も良く、とても聴きやすい抑揚で話してくれるので、小説のストーリーが追えなくなるということはありませんでした。
視点人物の変更に少し戸惑った
冒頭から主人公の息吹視点で話が進んでいて、外出から帰宅して奥さんが登場した後、奥さんの心理描写が入ったとき、「あっ、奥さん視点に変わったのか」と、一瞬戸惑いました。
本当に一瞬のことで、活字よりかは分かりづらかったなという程度で、2度目以降の視点変更はそれほど気になりませんでした。
男性ナレーターの場合、女性キャラの会話に違和感
オーディブルでは、基本的に一作品にナレーターは1人だと思います。
つまり、男性ナレーターが男性キャラも女性キャラも演じるわけです。
今回の『息吹』に関しても、さすがはプロの声優さん、女性の話し方もすごくうまいんですが、声はやはり男性。
シリアスなシーンであっても、オネエが話しているような違和感が…
後半は慣れてきてあまり気になりませんでしたが。
再生速度はどうするか
再生速度は、0.7、1.0、1.2、1.5、1.7、2.0から選べます。
1.2ぐらいが自分の黙読の速度と同じくらいかな?
2.0だと小説を読むには速すぎると思います。
聴けないことはないけど、運転しながらとか、ながら聴きは難しい。
『息吹』を聴く際は、せっかくプロの声優が丁寧に朗読してくれているので、デフォルトの1.0で聴きました。
少しゆっくりだなとは思いましたが、細かい描写までしっかり聴けて、車を運転しながらでも小説世界にしっかり没入できました。
平野啓一郎『息吹』の作品紹介&あらすじ
『息吹』は「オーディオファースト作品」
『息吹』は、活字として発表される前にオーディブルで配信された「オーディオファースト作品」として話題になりました。
すでに新潮1月号に掲載されましたが、単行本に収録されるのは、秋に発売される短編集になると思います。
作品毎に文体が変わったり、常に目的意識を持って小説を書いているイメージの平野啓一郎。
今回も「オーディオファースト作品」ということで、描写やラストの終わり方には、文字ではなく耳から聴くのを前提とした工夫がされているようです。
『息吹』のあらすじ
主人公の息吹は、息子の迎えに誤って1時間早く到着したことから、かき氷屋で時間を潰そうとします。
しかし、かき氷屋は満席で、仕方なくマクドナルドに行くことになりました。
そして、隣の席で大腸内視鏡検査の話をしているのをたまたま聞いて、自分も検査を受けてみることにします。
結果は、癌ではあるが、早期発見して除去したため、運良く命拾いしたのでした。
「もしかき氷屋に入れていたら、自分は検査を受けていなかっただろう。かき氷屋が満席だったかどうかが、自分の生死を分けた。」と息吹は考えさせられます。
しかし、しばらくすると、急に自分がかき氷を食べている記憶があることに気付きます。
かき氷を食べ逃して一命を取り留めた自分と、かき氷を食べたために癌に気付かない自分。
現実の境界線があやふやになって、最後は衝撃のラスト!という感じです。
2つの自分の記憶に悩む息吹と、夫の変化に戸惑う妻との関係が物語の中心になっています。
ここから、『息吹』の内容に触れてラストの考察をしますので、まだ『息吹』を読了していない方はご注意ください。
『息吹』のラストについての考察【ネタバレ有り】
『息吹』のラストについて、私が思いついた仮説を3つ紹介したいと思います。
息吹の妄想&感応性妄想障害説
癌を未然に発見した世界は、余命わずかの息吹の願望が生み出した妄想で、その妄想を妻が共有していたという説。
感応性妄想障害とは、夫婦や親子などの親密な関係で、片方が妄想性の精神疾患を患った場合に、もう片方も同じ妄想を共有してしまう障害だそうです。
妄想を共有してしまう側が、相手に献身的だったり依存している場合に起こりやすいそうで、2人を引き離すと妄想の共有もなくなることが多いようです。
妻は息吹を献身的に看病していたようなので、条件は整っています。
そして、息吹が亡くなり、時間が経った後、妻の妄想共有状態が解けたのが、物語のラストという感じ。
近未来の終末医療?VR説
トンデモ説みたいですけど、息吹が余命わずかと宣告された元の世界では、終末医療として、亡くなるまでの期間、病気のことを忘れてバーチャルの世界で幸せに暮らすという技術があるという説。
息吹も作中、そんな感じの話をしてましたね。
なんでラストで妻が、息吹が生きてると思っているのかという疑問が湧くけど、そこは妻妄想説とかと組み合わせれば…
まあ、自分はあまり押さない説ですね 笑
妻の妄想説
単純に、夫を亡くした妻の「もし夫の癌が早期に見つかっていたら…」という願望が生み出した妄想という説。
妄想の息吹が、「本当の自分は末期癌で余命わずか」と言い出すのは、妻の理性が、助かった息吹は自分の願望だと理解しているので、妄想の世界にそれが影響してしまったとか?
解釈は人それぞれだと思う
ラストについて、思いつく解釈を3つ書きましたが、読んだ人によって解釈は色々ありそうですね。
妄想とかではなく、本当に人生はその時の状況によって細かく分岐してパラレルワールドがたくさんできてるのかもしれないし、特に深く考えなくても、幻想的な話として楽しめるだろうし。
突然訪れたラスト、多くを説明せず会話も少なめで、個人的にはすごい余韻がある終わり方でいいなーと思いました。
物語を読み終わっても、しばらく物語世界にいるような感覚です。
最後まで読み終えて考えると、タイトルが『息吹』なのもどういう意味があるんだろう?
これが息吹の物語なのか、妻の物語なのか。
「オーディオファースト」で聴いてみよう!
先ほど記述したように、『息吹』は新調誌上では発表されていますが、まだ単行本には未収録です。
作者の平野啓一郎は、この作品が活字ではなくオーディブルで聴かれることを意識して執筆しているので、その工夫を感じるためにも、まずはオーディブルで聴いてみてはどうでしょうか?
オーディブルは5月9日まで、無料お試し期間が2ヶ月に延長されています。
ぜひこの期間にお試しで聴いてみるのはいかがですか?
平野啓一郎ファンなら、無料期間内に『息吹』だけ聴いて退会するのもありだとは思います。
他にも素晴らしいコンテンツがいっぱいあるので、退会するのがもったいなく感じてしまいそうですが…
無料期間内に退会しない場合、翌月から自動で料金が引き落とされるようなので、ご注意ください!