今回はオーディブルオリジナル作品のホラー小説『死写会』の感想を書いていきます。
オーディブルでは基本的にビジネス書を読んでいるのですが、好きな作家のオーディブルオリジナル作品があることを知って、平野啓一郎『息吹』、東野圭吾『誰かが私を殺した』を読みました。
他にもオーディブルオリジナル作品があることを知り、「最近、読む作家が固定されてきたなー」と感じていたので、オーディブルオリジナル作品を聴いて、新しいお気に入り作家を見つけようと、オーディブルオリジナル作品を全部聴いてみることにしました。
第一弾がこの『死写会』になります。
後半、展開に触れながら感想を書いていきますが、核心部分のネタバレはなしです。
展開に触れる感想の前には警告を入れるので、未読の方で前情報なしで読みたい人は注意してください。
『死写会』のあらすじ&著者紹介
『死写会』のあらすじ
昭和に世界で高く評価され、「最後の巨匠」と呼ばれていた映画監督。
映画へのこだわりや妥協を許さない、厳しい演出法で時代に合わなくなり、映画業界から干され、25年間、新作の発表はありませんでした。
しかし、海外で監督作品の再評価の機運が高まり、それが追い風となって25年ぶりに新作を撮影することになりました。
数億円の製作費をかけて、映画は完成しますが、映画を完成させた試写会の前日に、監督は謎の死を遂げます。
監督の死を隠して、新作『あやかし』の試写会を、メディア関係者を招待して行いました。
しかし、試写会の後、映画を観た50人近い人たちが一斉に自殺してしまうという事態になります。
居眠りをしたり、用事で途中で試写会を抜け出した数人が生き残りました。
このような事件が起きても、上映中止どころか、むしろ宣伝に使い、映画をヒットさせようとする配給会社。
劇場公開されたら、被害者は全国に膨大な数になると危惧した、試写会で生き残った人たちが、呪いについて調査し、劇場上映を阻止するために奔走します。
著者「五十嵐貴久」の紹介
著者の五十嵐貴久という作家、これまで作品も読んだことがないし、なんなら存在すら知りませんでした。
2001年にサントリーミステリー大賞で優秀作品賞、2002年にホラーサスペンス大賞を『リカ』で受賞してデビュー。
受賞作はホラーですが、ミステリ小説がメインの作家さんなんですかね。
『リカ』、『パパとムスメの七日間』『ウタヒメ彼女たちのスモーク・オン・ザ・ウォーター』、『交渉人』など映像化されている作品もあります。
映像化された作品も観たことはないですが、タイトルを聞いたことはありました。
『死写会』の感想
ここから、私が『死写会』を読んだ感想を書いていきます。核心部分のネタバレはないですが、展開に触れる部分もあるので、未読の方で前情報なしで読みたいという方は注意してください。
オーソドックスなホラー小説
「その映画を観たら、死ぬ」とキャッチコピーが付いてそうな、「呪いのビデオ」系のオーソドックスなホラー小説だと思いました。
試写会の後、映画を観た人たちが集団自殺。生き残った人たちが、呪いの原因を探るために巨匠監督の過去などを調査し、呪いを解くため奮闘する。
映画業界の裏側や闇を見られるのは映画好きとしては面白かったです。
劇場公開されると、映画を観なくてもSNSを通じてストーリーを知り、被害者が爆発的に増えるかもしれないという危惧は、現代的で良かったです。
もう少しホラー的な演出があっても良かった
オーディブルオリジナル作品によるホラー小説ということで、活字では体験できない、ホラー的な演出を期待したのですが、そういう演出はありませんでした。
『死写会』の前に視聴した、同じくオーディブルオリジナル作品の東野圭吾『誰かが私を殺した』では、銃声やドアが閉まる音などの効果音、BGMなどの演出がありました。
『死写会』も、「オーディブブックで聴くホラー!」と宣伝していたので、効果音やBGMを使って、もう少し恐怖を喚起するような演出があっても良かったんじゃないかなーと思いました。
まあ。これは作者の問題ではありませんが……
それでも、登場人物が凄惨な死を迎えるシーンでは、声優さんの演技が良くて、活字にはない迫力があったのは良かったです。
ラストにすごい仕掛けがあるのではないかと勝手に深読みしてしまった
前述した通り、この小説はオーソドックスなホラー小説です。
しかし、私はこの小説に対して、ラストにすごい仕掛けが待っていると深読みして読んでしまいました。
なぜそんな深読みをしてしまったのか。
作中で巨匠監督が撮影した『あやかし』は、どうも出来が良くないらしい。
『あやかし』を一部しか観ずに生き残った面々は、「途中でラストが読める」「『サイコ』と『シックスセンス』を合わせたような話でありきたり」などの感想を持っていました。
試写会でラストまで『あやかし』を観た人たちは、語り手になることなく亡くなってしまうので、実際のラストはどうなるか語られずに物語が進みます。
そして、『あやかし』を酷評する編集者に対して、映画評論家が「『あやかし』をラストまで観ていない俺たちに、『あやかし』を批評することはできない」と言うセリフがありました。
私はこれを、読者に対する作者からのメタ的なメッセージかと勘繰ったのです。
「君たち、『死写会』を「呪いのビデオ」系のありふれた話だと思っているね?すごい仕掛けがあるから、批評はラストまで読んでからにしてね。」という風な。
きっと、「呪いのビデオ」系のお約束とか定番の流れを逆手に取ったような、メタフィクション的、あるいは叙述トリック的な仕掛けがあるのではないかと考えてしまいました。
でも、この小説は本格ミステリではなくホラーですからね。
余計な深読みをしてハードルを上げなければ、もう少し楽しめたのかなと思いました。
結局、映画を観た人が亡くなってしまう条件は?
最終的に、映画を観た人が亡くなってしまう条件ってなんだったんでしょう?
ラストを観るとか、ある割合以上にストーリーを知ってしまったら、善人でも悪人でも関係なく、呪いが発動して死んでしまうという認識で読み進めていました。
しかし、最後の方では、程度の差こそあれ、巨匠監督のハラスメントを見て見ぬふりをした人が死ぬような感じになっていたような……
もし見て見ぬふりをした人たちが呪いのターゲットなら、登場人物が危惧したような劇場公開やSNSを通じて被害者が膨大な数になるというシナリオはなくなりますね。
私が何か重要なシーンを聴き逃している可能性もありますが……
まとめ
オーディブルオリジナル作品のホラー小説「死写会』の感想を書きました。
活字ではなく、通勤時間などの時間で少しずつ聴いたので、重大な事実誤認があるかもしれません。
はじめて読む作家でしたが、そんなに深掘りしようとは思いませんでした。
もし、この作家で「いやいや、これは傑作だから読んだ方がいい!」というのがあったら教えてほしいです。